箱庭の人形(ひとがた) 梅の香気


 2005年 1月 8日、21日 歌舞伎座 昼の部

 8日の初観劇でお目にかかった梶原吉さまは、綺麗で大きくて、素敵で、ようやく 「新年を迎えられたわ〜」と嬉しくはあったのですが、99年の初芝居に観たきりでしたので、 思い出とのつけあわせに気をとられてそー激しく感動はできませんでした。  そして、周囲が芝居してて梶原さんが居どこでじっと話を聴いてる風情のとこでは、半気絶してました。 とっても気持ちよかったんです。  2003年と2004年の吉さまは歌舞伎座スタートじゃなかったので、やっぱり嬉しい歌舞伎座での 初芝居。そんな安心感(?)もあって、うとうとと半睡半覚夢うつつ状態の時もありました。 それはそれでとっても贅沢かとは思うんですけどね。  でだ、21日のちけはお嫁入りしてくれなかったので 何とか仕事を休んで、二度目の梶原吉さまとの逢瀬に行ってきたですよ。これが…
大当たり!播磨屋、日本一!大好きだーーーっ!   と大感激でした。ええ、8日のときと芝居が変わったわけじゃないのだけれど、私の心身の調子や 座席位置とかも関係してるかもしれないけど、舞台はナマモノですわねぇ。 いやもう、感激しすぎて、コーフンしすぎて今日一日使いものになりませんでしたわ(^_^;) オトナになると、大きな哀しみばかりでなく、大きな喜びも心身と頭を疲れさせると実感。嗚呼。 そんなわけで、いつもより余計に熱してる感想文です(前置きながっ)
   上手に白梅、下手に紅梅、頭上に紅白の花。書き割りのお社。前に鳥居。上手に手水鉢。 ずらっと並んだ、白と砥の粉と赤面の武士。同じ並ぶなら腰元よりもののふがいいわん。 目も綾な舞台面。楽しい。超贅沢なお人形遊びのよう。 色彩が絢爛と脳を麻痺させて、舞台の結界と客席の境があいまいになる。    その色彩の中へ、花道を白梅の香りをふりまくように梶原が歩んでくる。 白晰のもののふ。白い美しい顔と手。大輪の白い梅の花だ。美しい。。 歩んでいるときも静止した姿も座しているたたずまいも完全に美しい。    そこにいるのは、緋毛氈に座した祭祀。もののふの形をしたひとがた。人間の形をした祭祀だ。 「形」の美しさ。指の動きのひとつひとつまで様式化された洗練されつくした「形」の美しさ。 その中にある役者の端正さと技巧と品性と温もりが体中から発散されている。 したたるような凛々とした爽やで馥郁たる香気。梶原の周囲に白梅の花びらを散りしいたような 香気と明るさが漂っている。
   まず、姿も台詞ももちろん良いのだけれども、表情のひとつひとつが素晴らしい。 大庭や俣野や、その一派の侍に嫌味かまされているときの、しっかり話を聴いて理解していながら ふんわりとしっかりと受けて流していく表情。梢を見遣る、好色ではないのだけれども、 可愛いやつとでもいうような何とも温かく、色っぽい表情。父娘の話を聴いているときの情け深い表情 目利きした刀を少年のような喜びの顔で見入る表情。完璧な大人の男には少年がいつも宿っているのかも しれない。立派でありながら無邪気に爽やかだ。 大庭方の非情さに憤る表情、すべての表情が大げさではないのに、胸にストレートに伝わってくる。 もう既にパーフェクト梶原。生締もののふナンバーワン。  そしてもちろん台詞。俣野をとどめる凛々とした声、刀を目利きしたあとの喜びの声、頼朝を救ったこと を物語る、ものがたり。目で耳で味わう快楽。心地よい興奮。胸の痛むような嬉しさ。
 目利きの前に手と口を浄めて神聖な刀を手にするのに、その同じ刀で不浄な人間を斬る。 神聖な刀、でも人の血を吸う刀。矛盾とものごとの裏表。  緋毛氈の色を受けて血刀に見える、刀というものの妖しい美しさ。 懐紙の扱い、刀を扱う仕種ひとつひとつの端正さ。 ふたつ胴を斬る刹那に紅白の花びらがはらはらと舞う。それは、歌舞伎の魔法。 美しさここに極まれり。  実は、今回、アタシの落ちどころはここだったんです。変かもしれないけど、この、 人を斬ろうという瞬間に花びらが舞い落ちるという倒錯美。 ここは一度目のときも衝撃的でした。ええ。大好きです。 そうですか、やっぱりですか、どうもすみません。
   酔いました。たっぷりと。  お正月の華やか演目でうららか〜に楽しめばいいかくらいに考えていたのが ある意味、きんぐおふ苦悩な吉さまを観たときくらいの感動がありましたわ。 だって、ものすごく疲れちゃったんだもん。心地よい疲れですけど。  私にとっては、又平さん、大蔵さん、熊ちゃん、知盛さん、俊寛さんや、次郎左衛門さんは 吉さま以外にはあり得ないのですが、それに一役増えました。 これからは、梶原さんも吉さま以外は考えられません。ええ、私にとっては世界一です。  ああた、一体どっちの味方やねん?源氏に気持ちいってんならそっち行きゃいいじゃんとか、 結局、自分が名刀ゲットしちゃったじゃん!とか、手水鉢斬っちゃってどうすんのよ!とか そんなことを言ってはいけません。酔うべし。 アタシは酔いすぎました。ふらふらです。ちょっと切ないくらいです。 何でそこまで心動いちゃったのか、自分でもよくわかりません。 でも、幸せですわ。この世の憂さをしばし忘れられるし、それだけでなく、この世の憂さに立ち向かっていく 勇気も生まれますわ。 ありがとうございます。吉さま。    今年も憑いていきますよっ! しかし、くどいけどフラフラだ〜。ひーっ。
 2004年1月22日 記  寝ても醒めても 表紙へ