かわいそうなクモちゃん


 2005年 1月14日、25日 歌舞伎座 夜の部
 かわいそうなクモちゃんに会ってからすでにほぼ一ヶ月。 今では、傷の痛みに呻く声くらいしか記憶にないのですが、あの声は痛くて苦しそうでしたなあ。    さて、2004年初芝居@松竹座で観たときは、とにかくでかさに圧倒されました。 でかくて立派でど迫力で強そうでした。最強そうなのにちっぽけな人間にやられてしまいます。    それはそれで、ちっぽけながらも人間の結束と、刀に宿る力にやられちゃったのねと 自分を納得させることはできましたが、それでもあっけなさはありました。    なぜ?なぜ?負けるにこと欠いて、ダメダメボーイズ…もとい、あんなよわっちい 坂田さんと四天王にやられちゃうのか?かなり強引に自分に理由づけしないと納得できま せんでした。はい。  それと、日本の天、地、海、あまねく大自然から自然発生的に生まれた日本の大地土着的 巨悪大妖精には見えませんでした。 説明できないんですけど、やはり、何か「人間」を背負っているように見えました。 
 智籌さんが自己紹介(?)で言ってましたが、 「僕、武士の子に生まれたんだけど父上は戦死しちゃって、菩提を弔うために僧になったのさ」と。 ああ、やぱりぃ?って感じ。  自然発生大妖精でなく、元は人間で、戦に虚しさやら悲しみやら、憤りやら怨恨やら 諸々の負の感情を魂に抱いて、変化しちゃった悪霊みたいな。
 歌舞伎座での土蜘さんも、広い歌舞伎座に充満するほどのでっかさでしたが、 やっぱり、「日本を魔界に堕す」というような超野望を抱く悪霊精には見えませんでした。 考えた結果、ほんとは日本を魔界に堕すことにそう乗り気ではない土蜘さんだったんじゃないでしょうか? 日本の大地の土の精霊ですよ。「悪」として退けられる精でも。 「六十余州に眷属がおるわい!」っていばってますけど、人間達のように結束はないようだし 結局は「滅び行く種族」なのでしょうなあ。
 やけになってるわけじゃないんだけど、暗い虚無を感じます。智籌さんのときから、すでに、妖しく、 縦横斜めどっから見ても、怪しく妖しいのですが、妖しの力をもってしても、牽制はできるけど すでに人間は、ずーっと恐怖で畏怖してくれはしません。  あ、あやかしの者だ!→驚嘆・恐れ→攻撃になります。 すでに、天の神も地のあやかしも人間にとって、無条件の尊重や、畏怖の対象になりません。 なんたって、人間万能なんですから。人間の驕りは、神にも変化にも打ち勝ちます。 で、妖力を使って、しばし、人間どもを固めても、蜘蛛の糸をからめても 恐怖の幻影はあっという間に去ってしまいます。  っていうか、智籌さん、いやさ、土蜘の精さん、 あなた、見かけはすんごい妖しく強そうですけど武器といったら… 蜘蛛の糸だけですからーーーっ!!ざんねーーーんっ!!斬り!! っていうわけで、あっさり斬られてしまいました。しまいましたが、逃げました。 逃げましたが、止血しないで逃げたんで血痕ありありです。当然、人間は暗闇も火も恐れてませんから 真っ暗闇の中を松明かかげてひるまず、追ってきます。 本来の変化姿に戻ってるクモちゃんですが、傷は癒えません。見た目はど迫力ですけど。 人間の造った刀の刃には魔力を斬る力があるからです。(たぶん)
 それで、クモタワー(?)に幕がかけられていて控えている間、クモちゃん、呻いてます。 松竹座初観劇時は、気づきませんでしたが、かわいそうです。痛そうです。苦しそうです。 …いぢめるなよ。クモちゃんを。。 手負いのクモちゃんは、人間どもと派手に立ち回るわけですが、当然のごとく 動きは激しいですけど、武器といったら… 蜘蛛の糸だけですからーーーっ!!顔や姿は怖がってくれませんからーーーっ! 拙者、クモさんがかわいそうで坂田さんと四天王を憎んでしまいましたからー!せっぷくーーーっ!
 そして、死ぬところまで歌舞伎ではやらず、やっつけられちゃったはずなのに、中央にかまえて があああっと見得してきまります。そして幕です。  クモちゃん、日本を魔界に堕さなくていいよ。日本征服しなくていいよ。 人間を征服したって楽しくないよ。きっと。 でも、人間どもにやっつけられる体にはしてたけど、実は自殺だったのかもねぇ。 人間は異物を受け入れないんだよ。きっと。だから安らかに眠ってね。クモちゃん。 異界の変化の苦しみや悲しみを人間が理解しようとする日がくるまで。
   2005年2月24日 記  寝ても醒めても 表紙へ